9匹のあひる

不思議な言葉でお話ししましょ

ぱろっぴっぴよ!!!ぽよぽよよよよんんん!!!どかーん!!!!!

 緑ちゃんは電車から降りました。降りた先は池袋。西武線に乗ってきたのです。池袋駅東口を出てすぐの信号を待っていると、信号を渡った先にあるドンキを見上げている少女がいました。気になったので、信号を渡ったら声をかけてみようと思いました。信号を渡り終わり、その少女を探していると、後ろからおじさんに声をかけられました。
 
「この近くで、10歳くらいの女の子を見かけなかったか」
「ええ、見かけました」
「どこで見かけたか教えてくれないか」
「死ねカス」
 おじさんは怒って、私の髪を掴みました。
「おいクソガキ、舐めたこと言ってんじゃねえよ。ぱおぱおぴょろぴょろだぞ!!!」
「こまねち!こまねち!」

 私は一生懸命に、こまねちを披露しました。とても怖かったので、近くにいる人の視線など気にしていられません。顔面はぐちゃんぐちゃんで、ヨダレと鼻水で酷い有様だったと思います。私の決死のこまねちが功を奏したのか、おじさんは自分の右乳首を左手の人差し指と中指で思いっきりつまんで、
 
「ぎゃおおおおおおおおおおおおおん。ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!」

 と、泣き始めました。そこからおじさんは、語り始めたのです。
 
「二年前に妻が失踪したんだ。そこからは、娘との二人暮らし。俺は料理、洗濯、掃除なんてしたことなかったけど、娘のためになんでもした。小学生の流行りの髪型なんて知らなかったけど、みようみまねで、髪を結んでやったりもした。授業参観にも行った」

 おじさんは、左のポケットから煙草を取り出し、ビックのライターで火をつけました。その仕草はどこか、淋しさを感じさせるものでした。その煙草はハイライトだったと思います。
 
「俺は褒められた人間じゃない。人は何人も殺した。ものだってたくさん盗んだ。人の尊厳を踏みにじった。薬にも手を出した。国家転覆以外の悪いことは、すべてやってきた。警察から追われ、逃げ疲れていたとき、妻に出会ったんだ。逃げ疲れてレレレのレ!!!!!」

 おじさんは遠くを見て、懐かしむ顔つきになりました。
 
「俺の妻はな、俺が誘拐してきた女なんだ。娘も同じさ。ガキが欲しくなったから、誘拐してきた。どうだ、家族を作るなんて、簡単だろ?」
 
 緑ちゃんはひたすら逃げました。