9匹のあひる

不思議な言葉でお話ししましょ

私たちが生まれたときのお話し。それと大人のお話し

ふと思い出す

愛惜のものとして

皮肉にも、私たちの過去はこれでしかない

ただただ黒く、暗い景色の万華鏡

こうしたものに私たちは五感を投げ入れる

そして、懐かしさに胸が憂いる

熟した林檎のように

秋の夕焼けの美しさの中で寂しそうに揺れる

ススキのような静けさをもって

私たちは思い出す

私たちが生まれたとき

道はすでにアスファルトだった

アスファルトの続く直線、アスファルトの描く曲線

雨を弾き、水たまりをつくるのはアスファルトだった

太陽が照らすのも、汗を落とす場所さえも、アスファルトだった

汗の落ちる場所は、歩む道は、いつも黒い。暗かった

空は青く、地は黒く、暗い

陽炎の生きる場所だって、いつだって

アスファルトは飲み込んだ

私たちの黒い瞳は、黒だけを飲み込んだ

私たちの思い出は、アスファルトで圧殺される

緑の風景を下から支えるのは、我らが生んだ新しい黒色

日々の疲れからヒビの入ったアスファルトに、黒い蟻が歩を進める

蟻の足場までも黒くなった

雨が降っているわけでもないのに

この黒さは発展の標

この暗さは繁栄の証

私たちの住む青い星が真っ黒になるまで

人類は、ガラの悪い黒塗りのポンコツをこしらえ続けるのだろうか

暗い幻想と黒い事実

黒く濁った思い出の道は、私たちを生んだ大地だ

ションベンかけて、唾をみなぎらせよ

虫唾の走り出すままに

 

 

「大人ってなにか知ってる?」

「んー、妥協できるようになった人?」

「惜しい」

「えーっと、わかんない」

「ホルマリン注射されて、ピンで止められた標本箱の中で立派に胸を反らす人のことよ」

「ぜんぜん惜しくないじゃん」

「そんなこと、どうでもいいでしょ?」

 緑がそう色づくと、春は芽吹き出した。春は緑に日差しを与える。

「緑は大人がきらいなの?」

「嫌いよ。だって、ムカつくもの」

 春は緑が新緑に対して送る軽蔑のまなざしを思い出しながらうそぶく。

「子供にだってムカつくくせに」

「それとこれとは話は別なの。いい?子供にムカつくのは無神経だから。んで、大人にムカつくのは、頭が悪いくせに、自分はよくできたオツムを持ってると自信ありげに振る舞うから。自分がどうしてそういうふうに出来上がったか知らないくせにね。それで、そのことにあぐらをかいて、ぺらぺらと口をぱくぱくさせるのよ。そんなところであぐらをかいたところで、菩薩にだってなりゃしないのに」

「緑はおもちゃ箱みたいね」

「バカにしてるの?」

「最高に褒めてるよ。そうね、ショットガンで頭をブチ抜きたいくらいには、褒めてるつもり」

「カートになんてなりたくないよ」

 春は過ぎ、緑はますます深くなる。