お母さんは嘘つき。私の9歳の誕生日にたばこをやめると言ったのに。
お母さんは便所でたばこを吸うのが好きみたい。ずっとトイレにこもってたばこを吸ってる。安いヤニの付いたペーパーバックをずっと読んでる。私が小便をしたくなって、トイレに行って声をかけても出てこない。いつも「んー。」と、うなるだけ。「はぁーあ」とのんきにあくびまでしてる。
お母さんは嘘つき。私の10歳の誕生日に死ぬと言ったのに。
お母さんは便所で生きるのが好き見たい。ずっとトイレにこもって生きてる。安いシミの付いたTシャツをずっと着てる。私が大便をしたくなって、トイレに行って声をかけても出てこない。いつも「 」と だけ。「 」と に までしてる。
お母さんが嘘をつかなくなった。私の14歳の誕生日からは。
お母さんは 。 、 。そして、なにもかもを て、それから った。私はとても悲しかったけれど、 だったんだ。雨の滴る音が流れるばかりでね。
お母さんは た。私の 歳の誕生日だったのに。
お母さんはよく言っていた。雨粒は世界を内包すると。
「葉っぱについている雨粒をよくご覧なさい。世界が詰まっているでしょう?一粒一粒に世界が入っているでしょう?隣り合う雨粒だってそうよ。雨粒同士もお互いをその身に内包しているでしょう?雨粒だけが世界を無限に包みこむことができるのよ。もしも、世界中に同時に雨が降ったら、その時、たった一粒の雨粒に全世界が写しだされるの。それも、すべての雨粒に。無限反射するの。不安みたいに。世界が無限になるわ」
お母さんは、たばこをやめた。