9匹のあひる

不思議な言葉でお話ししましょ

緑物語1

 その液体は腕の中をスルリと抜けていきました。ドンという音とともにそれは走っていきました。四肢が唸り、身体を躍動させながら。

 

 緑ちゃんは猫を飼っていました。自分の膝の上で眠る猫が大好きでした。それはとても暖かく、優しいのでした。もう死んじゃったランボーという詩人は、自分の膝の上に幸せを座らせて、なんとやらと書いていたような気がしますが、あれはきっと猫のことを想定していたのではないかと思います。

 目を瞑りながら眠る猫は、明日のことなんて考えていません。かといって、なにも感じていない訳ではないのです。きっと、ただ感じているのです。また、夢も見ているに違いありません。シマウマの喉をその凶暴な牙でかき切り、痙攣する赤褐色の肉を味わう夢。それはなにもサバンナなどの光景のなかではないのです。緑ちゃんたちの住む、錆びた街の裏路地での夢です。そこにきっとあるものなのです。

 午後の柔らかな日差しを受け、眠る猫を見ていると、緑ちゃんも眠たくなってきました。うとうとしながら、ゆっくり揺れ、そして。

 

 緑ちゃんはよく散歩をします。近所の人からは今日も元気だね、とよく声をかけられます。元気ってどういう状態なんだろうとよく考えますが、わかりません。ニコニコして私は歩いているのかしらん?

 今日は12/30です。年の瀬です。寒くて身体が縮みそうです。たま○んみたいに。通りの木々たちは、葉っぱをつけていることに飽きてしまったのでしょう。一本たりとて、葉をつけているものはありません。身体をさらけ出しています。この露出狂めが。私にそんな下品なもんみせてんじゃねーよ。と、私はとりま舌打ちをしました。

 眉間にシワを寄せ、視感症的になった世界に辟易していると、近所の最近一番ダルいおじいさんが、

「ああ、緑ちゃん、おはよう」

と、生意気にもあいさつをしてきました。私はとても気が立っていたので、

「おはおはおはおはおはおはおはおはおはぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ」

と、言ってやりました。するとそのおじいさんは目を見開いた後、人の良さそうな笑みを作りました。完全に舐めてやがると私は思ったので、顔面に唾を吐きかけてあげました。きっと喜ぶに違いないと、そう信じて。するとおじいさんは、

「なにをするんだ!」

と、怒鳴りました。私はすでに飽きてしまっていたので、散文的に笑いました。そして、そのおじいさんにキスをし、その場を後にしました。

 

 きっと、明日は晴れるでしょう。